機嫌よくさえずる美ケ原の小鳥
昨年(H7年)の秋の撮影会も美ケ原だった。あの時は紅葉にはほんの少し早すぎた時期であった。カラマツが金色に輝く光景を一番の楽しみにして来たのだが,カラマツはようやく茶色に変身したばかりで,よほどの光に恵まれないと写真にはならない状況であった。それでも平地の千葉に比べるべくもない美しい高原の秋彩を楽しんだ。写真もソコソコのものが2〜3枚はあったと記憶している。
今回の美ケ原撮影会(平成8年6月22,23日)は少しばかり違っていた。
お目当てのレンゲツツジはまだ二分咲き位の淋し さで,夕焼けはなく,朝焼けも芳しくない美ケ原であった。良い被写体が少ないところでは良い写真を撮ることが絶対に出来ない私には,撮影開始時点から
今回はダメ の予感があった。出来上がったスライドを3,4回くり返して見ながら,ボツにするスライドの小高い山を築いていた挙句,コレ,ドウカナ?と思うもの一枚と当て馬の二枚を(撮影会提出作品として)選んだ。この「コレ,ドウカナ」が,一席を頂いた「さえずり」(写真:下)である。
駐車場から下っていく車道の左側に小さな丘があり,その頂きとおぼしき所に小さいケルンが立っている。被写体が少ないので,このケルンを今回の目玉にしなくてはと思いつつ,行きはそれを通り過ぎ,クマザサや枯れた葦のなかにわずかな花とつぼみで懸命に自己主張しているレンゲツツジを狙ってあちこちをうろつき,帰路にケルンに向かった。
ケルンの手前まで来た時,すぐ近くに鳥のさえずりが聞こえた。ケルンの頂きに一羽の小鳥が止って居るいる。だが瞬時に飛び立ち,近くの潅木に移った。そして潅木の細く上に伸びた枝で 再びさえずり始めた。出来るだけユックリ,出来るだけ静かに小鳥に近づいた。
・・・・・・ 出来るだけ とは,なにを基準にして言っているの? どれだけ静かにどれだけユックリ行けば,小鳥は飛び立たないというの?・・・・・。10m位の距離で止まった。まださえずっている。きっと機嫌がよいのだ。・・・・・・どうして止まるの? もっと近づいてみたら? 300mmでもまだ届かないよ。逃げないよ!・・・・・・。
もうこれ以上近づけない。息を止めて三脚を降ろした。だが場所が悪い。背景は薄い雲一面の空である。かなり右手に移動すればバックに山の緑が入るのだが,小鳥の機嫌がよいうちにせめて一枚は撮りたい。もう動けない。ファインダを覗けば,やはり小鳥は300mmでは小さい。小鳥のとまっている枝とほかの枝・葉で素早く画面作りをする。
ファインダ−のなかの小鳥は,チョンと体を動かしてほぼ横向きの姿勢になった。さえずりの最中は,首をやや上向きにして,くちばしを大きく開る。のどが震える。レンズは100−300F4.5−5.6。小鳥と枝が黒いシルエットになってしまったら写真にはならない。露出を小鳥で拾った。補正はプラス1.0。開放から1/2段絞る。コンティニュアスにセットし直す暇がない。一枚だけシャッタ−を切った。ひと呼吸おいたタイミングで,小鳥は飛び去った。
機嫌よく私の相手をしてくれた美ケ原の小鳥は,
なんという名前の鳥だったのだろう。
以上
<1997年1月号「写羅句」掲載>
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