撮 影 日 記
平成12年10月 その2


平成12年10月10日:霧の美しケ原
 遥かなる信州ではあるが,三泊四日なら少しはゆっくり写真が撮れるだろう,頑張るかと出かけた。10月10日〜13日の日程である。
 初日は行きがけの駄賃で,美ケ原・王ケ頭。下から見上げても雲の中だし,山道を登り始めてもウルシの赤ばかりで,紅葉の予感は一向にせず,なんだか元気が出てこない。美鈴湖から上の林道が通行料金無料になっていたのが,せめてもの儲けもの。セコイのだが,というのも,カ−ナビに案内をさせたら,三才山トンネルという長いトンンルの先から入る私の知らない道を示したものだから,行ってみようじゃないかとそちらの向かった。だが曲がるべきところに来ると,ゲ−トが立ちふさがっている。この道は10年前から閉鎖されているという。往復のトンネル料金と時間を無駄にして馴染みの道に引き返した事情があるからである。「10年前から・・・」と教えてくれた土地のご婦人の続けて曰く。「カ−ナビの人がよくここに来るのですよ。これで何人目かしら」。
 王ケ頭は一面の霧。時折サッと晴れる。晴れた霧の間に見えるカラマツはまだ緑青々。レンゲツツジや下生えは色づいているが,茶色の見栄えは悪い。これでは,写真歴7年目位にして初めてここを訪れた妻に,天下の景勝・美ケ原の素晴らしさを堪能したろうということも出来ない。それでも一本を撮る。
             
平成12年10月11日:憧れの紅葉の栂池
 今回の信州詣での目的地は,栂池。秋の栂池は初めてである。長い間人の写真やテレビでの紹介を見るばかりで,現場に臨みたいという欲求不満は限度に達していた。そうでなくとも,‘紅葉の景色’の写真ストックが皆無に近くては,私の趣味は自然・風景の写真を撮ることです,と言うのは憚れる。淋しい。栂池で,一気にこの状態から抜け出そうというのが,今回の狙いである。
 森林限界から下で1400m位までの間の山腹は全山紅葉。これだけの広範囲の紅葉は見たことがない。目の眩むばかりの自然の彩色の妙である。
 画家はありったけの色のチュ−ブを持って行くのだろうが,私はフィルム10本。しかもパレットも要らない。   天候にも恵まれた。今日のこの山系は,上空は青空が広がったり雲がそれを隠したり,山は霧に覆われたり紅葉域まで晴れ渡ったりで,忙しい気象変化を繰り返す。辺り一帯は,一日にして何日分かの趣きの異なった景色を見せてくれた。そしてその度ごとに,素人写真家冥利に尽きる露出技術の駆使を余儀なくさせられるのであった。
 栂池自然園の一番奥の展望湿原で二時間を過ごした。ここに着くまでに2時間の紅葉狩りを楽しんだ後であったから,展望湿原での目の保養は,白馬の麓の方から湧き上がり舞う霧の千変万化の様である。見飽きることがない。湧き上がり舞った霧は,素早く,時にはゆっくりと北方向の山腹に流れて,錦秋に濃淡のあるガスをかけていく。写真にするのは難しいが,景色として楽しむには,これほど感動的なものはない。どこかに一条の光でも射しこめば,もう涙ものである。
 こんな美しく大きな光景を写真に写し撮れなかったとしても,すべて頭にインプットされたのだから後悔はしないな,と思いながら,帰路にもフィルム消化を続けた。
 しかし今は,当然のことながら,後悔している。もっと工夫してもっと沢山撮っておくべきだった。

平成12年10月12日:乗鞍の笠雲もどき
 乗鞍の笠雲もどきを見た。乗鞍には大きな期待をしなかっただけに,儲ものをした。紅葉は山腹では相当に進んでいたし,頂上に向かう道路沿いの林にも何箇所も車を止めたいところがあった。昨日の栂池と比較するというハンディを自らに負わせてしまっているのがツライ。とはいえ,なんという懐深い風景なんだ。
 そして今日は空がいい。昨日の白馬では山を隠す雲が多く,稜線鮮やかな山々と紅葉が絡み合う場面が少なかったが,乗鞍の上空は殆ど紺碧で,白雲もたなびいている。空気感が素晴らしい。雲の形がよくなったら撮ろうと,広角に変え三脚を構え直し,残り枚数が少なくなったフィルムを消化して新しいものに入れ替えよう,などともたついている時,たなびいていた雲が,アッという間に笠雲の形状に変わっていった。運がよければ,二段の笠雲になるかもしれない。場所の移動も加わり慌てふためいているうちに,笠雲はズンズンと形を崩していく。やっと切ったシャッタ−は3段階補正で二枚だけ。それも,見事な‘笠雲もどき’。ストックに残せそうな一枚を,頭の中で露出補正しながら,眺めている。やはり私はドジである。
 

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