今日のこの旧宿場は,見物客も殆どなく,閑散として佇んでいた。弱い太陽の光がほぼ真上から降り,もともとは黒々としていたに違いない瓦屋根は,光の下でいくらか茶色がかって見えて,黒瓦の連なりがみせる色彩的なインパクトはない。やや白っぽく光る意外に広い旧街道の道幅が作り出す空間と相まって,一つか二つのポイントに向けられた視点が次第に広がり,やがて目が全体像としての一枚の絵画を認識するような,そんな意識の動きを感じさせる光景ではなく,この旧宿場は,すっ−と向こう側か空中に拡散していくのではないかと思うほどの,あっけらかんとした空間を感じた。空の青の薄さも,この‘抜けていく’感覚を醸し出したかもしれない。
こんな風に感じられて,なんだかポイントが定め難いここが写真になるのかな,というのが最初に街道の端に立ったときの印象であった。
ところが,屋根や壁や格子や用水,緩やかな街道の曲線といった,ここの景観のコンポーネンツに眼を向け始めるとると,宿全体が,次第に雄弁となった。アチコチで,構図が出現し始めた。特に私が惹かれたのは,卯建である。なかでも,当時の養蚕業の栄華を示す袖卯建の白壁の美しさと形の誇らかさは,見飽きず撮り飽きない被写体であった。
撮りたいものを沢山撮りそこなった小半日であったが,こういう場所では,いつも撮り損ない・撮り忘れだらけである。いつまでこの後悔を繰り返すのだろう。
「蔵造りの町・川越」と「北国街道・海野宿」の由来や何枚かの写真は,
小さな旅 カメラ・スケッチ の
PART2 に掲載。